beauty

矯正治療中の歯軋りにエラボトックスが効く理由と効果

矯正治療中に歯軋りが起こる原因とリスク

矯正治療を始めると、歯や顎に新たな負担がかかることで、無意識のうちに歯軋りや食いしばりが増えてしまうことがあります。これは体が矯正装置という「異物」に対して、自然と反応している証拠なのです。

私が臨床で多く見てきた患者さんの中には、矯正治療を始めてから「朝起きると顎が疲れている」「頭痛が増えた」といった症状を訴える方が少なくありません。

矯正治療中の歯軋りは、単なる不快感だけでなく、治療効果にも大きく影響します。強い力で歯を食いしばることで、せっかく移動した歯が元の位置に戻ろうとする力が働いてしまうのです。

歯軋りが矯正治療中に起こると、以下のようなリスクが高まります。

  • 治療期間の延長:歯の移動が妨げられることで、予定していた治療期間が長引く可能性があります
  • 装置の破損:ワイヤーやブラケットに過度な力がかかり、破損するリスクが高まります
  • 顎関節症の悪化:顎に負担がかかることで、顎関節症の症状が現れたり悪化したりすることがあります
  • 歯根吸収のリスク:過度な力が歯根に伝わり、歯根吸収のリスクが高まる場合があります

特に注意したいのは、マウスピース矯正中の歯軋りです。マウスピース自体が歯軋りを抑制する効果もありますが、逆に装置があることで無意識に噛みしめる力が強くなるケースも見られます。

では、矯正治療中の歯軋りにはどのように対処すればよいのでしょうか?

従来の歯軋り対策とその限界

歯軋りや食いしばりの対策として、従来から最も一般的に用いられてきたのがナイトガード(マウスピース)です。就寝時に装着することで、歯の摩耗を防ぎ、顎関節への負担を軽減する効果があります。

しかし、矯正治療中の患者さんにとって、このナイトガードの使用には大きな問題があります。矯正装置と併用が難しいのです。

特にワイヤー矯正中は、別のマウスピースを装着することが物理的に困難です。また、マウスピース矯正の場合は、就寝時もマウスピースを装着する必要があるため、ナイトガードとの併用ができません。

他にも、歯軋り対策としては以下のような方法が試されてきました。

  • リラクゼーション:就寝前のストレッチやマッサージで顎の緊張をほぐす
  • バイオフィードバック:歯軋りを感知して警告する装置の使用
  • 生活習慣の改善:カフェインやアルコールの摂取制限、睡眠環境の改善

これらの方法は一定の効果が期待できますが、無意識・睡眠中に起こる歯軋りに対しては、効果に限界があるのが実情です。

従来の対策では、歯軋りの「結果」を緩和することはできても、歯軋りを引き起こす「原因」である咬筋の過緊張そのものを直接的に抑制することはできませんでした。

この限界を超える新たな選択肢として注目されているのが、エラボトックス治療です。

エラボトックスとは?作用メカニズムを解説

エラボトックスとは、ボツリヌストキシンという成分を咬筋(こうきん)に注入する治療法です。咬筋は頬の外側にある、物を噛むための強力な筋肉で、いわゆる「エラ」の部分に位置しています。

ボツリヌストキシンは、筋肉と神経の接合部に作用し、筋肉を収縮させる信号の伝達を一時的に抑制します。これにより、咬筋の過剰な緊張が緩和され、歯軋りや食いしばりの力が弱まるのです。

歯科医院で行うエラボトックス治療の特徴は、以下の点にあります。

  • 筋肉の緊張を直接緩和:咬筋の過緊張そのものを抑制します
  • 歯軋り・食いしばりの力を弱める:無意識に行う歯軋りの力が弱まります
  • 効果は一時的:通常3〜4ヶ月程度効果が持続します
  • 施術時間が短い:約15分程度で終了します
  • ダウンタイムが少ない:施術後すぐに日常生活に戻れます

当院では、MyOnyx(筋電計)を使用して咬筋の活動を測定し、適切な注射量を決定しています。これにより、患者さん一人ひとりの症状に合わせた最適な治療が可能になります。

特筆すべきは、エラボトックスが美容目的だけでなく、歯科治療としての側面も持つ点です。歯軋りや食いしばりを抑制することで、歯や顎関節への負担を軽減し、様々な口腔内のトラブルを予防できます。

矯正治療中にエラボトックスが効果的な理由

矯正治療中の歯軋りにエラボトックスが特に効果的な理由は、主に以下の3つのポイントにあります。

矯正装置との併用が可能

ナイトガードとは異なり、ワイヤー矯正やマウスピース矯正の装置と物理的に干渉することがありません。治療を中断することなく、歯軋り対策を並行して行えるのは大きなメリットです。

咬筋の力そのものを弱めることがでる

矯正治療中は歯の移動に伴う違和感から、無意識に咬筋に力が入りやすくなります。エラボトックスは筋肉の過緊張を直接抑制するため、根本的な対策となります。

治療効果の安定化

歯軋りによる過度な力は、矯正によって移動した歯を元の位置に戻そうとする力として働きます。この力を抑制することで、矯正治療の効果を安定させ、治療期間の短縮にも寄与する可能性があるのです。

実際の臨床では、以下のようなケースでエラボトックスが特に効果的です。

  • クレンチング(食いしばり)タイプの歯軋りがある患者さん
  • 顎関節症の症状を併発している患者さん
  • 矯正装置の破損を繰り返す患者さん
  • 矯正治療による痛みや不快感が強い患者さん

ただし、すべての方に同じ効果が得られるわけではありません。効果には個人差があり、症状の程度や原因によって効果の現れ方も異なります。

エラボトックスで期待できる効果と持続期間

エラボトックスを矯正治療中に併用することで、以下のような効果が期待できます。

  • 歯軋り・食いしばりの力の軽減:咬筋の力が弱まることで、歯に加わる力が減少します
  • 顎の疲労感・痛みの軽減:朝起きたときの顎のだるさや痛みが軽減します
  • 頭痛・肩こりの改善:咬筋の緊張に起因する頭痛や肩こりが改善することがあります
  • 矯正装置の破損リスク低減:過度な力が抑えられるため、装置の破損が減少します
  • 治療効果の安定化:歯の移動を妨げる力が減少し、治療効果が安定します
  • 副次的な小顔効果:咬筋の緊張が緩和されることで、フェイスラインがすっきりする効果も期待できます

効果の持続期間は個人差がありますが、一般的には3〜4ヶ月程度持続します。効果は注射後、数日から2週間程度で徐々に現れ始め、2〜3週間で最大になることが多いです。

また、定期的に施術を繰り返すことで、咬筋が徐々に小さくなり(廃用性萎縮)、効果の持続期間が延びる傾向も見られます。初期は3〜4ヶ月ごとの施術が必要でも、継続することで半年に1回程度の頻度になるケースもあります。

ただし、エラボトックスには以下のような注意点もあります。

  • 効果には個人差がある:全ての方に同じ効果が得られるわけではありません
  • 一時的な効果である:永続的な解決策ではなく、効果の持続には定期的な施術が必要です
  • 自費診療となる:保険適用外の治療のため、費用は全額自己負担となります

矯正治療中の患者さんにとって、エラボトックスは治療期間中の不快感を軽減し、治療効果を高めるための有効な選択肢の一つです。特に、従来の対策では効果が不十分だった方に検討していただきたい治療法です。

よくある質問と回答

矯正治療中のエラボトックスについて、患者さんからよくいただく質問とその回答をまとめました。

Q1: 矯正治療中にエラボトックスを受けても問題ないですか?

A: はい、問題ありません。むしろ矯正治療中の歯軋りや食いしばりを軽減することで、矯正治療の効果を高める可能性があります。エラボトックスは矯正装置と物理的に干渉することなく併用できるため、矯正治療中の患者さんにも適しています。

Q2: 施術の痛みはどの程度ですか?

A: 非常に細い針を使用するため、痛みは最小限です。チクッとした軽い痛みを感じる程度で、多くの患者さんは「思ったより痛くなかった」と言われます。不安な方には表面麻酔も可能ですので、ご相談ください。

Q3: 効果はいつから実感できますか?

A: 個人差はありますが、通常は施術後2〜3日から徐々に効果を感じ始め、2〜3週間で最大の効果が現れます。朝起きたときの顎のだるさや疲労感が軽減するのが最初の変化として感じられることが多いです。

Q4: 副作用はありますか?

A: 一般的な副作用としては、注射部位の一時的な内出血や腫れ、まれに頭痛などがあります。これらは通常数日で改善します。また、咬む力が弱まることで、硬いものを噛むときに違和感を感じる方もいますが、これも治療効果の一部であり、日常生活に支障をきたすほどではありません。

Q5: 費用はどのくらいかかりますか?

A: 当院では、咬筋へのエラボトックス治療は片側27,500円(両側で55,000円・税込)で提供しています。また、MyOnyx(筋電計)による検査と施術を組み合わせた場合は33,000円(税込)となります。なお、エラボトックスは自費診療となりますが、歯科治療の一環として医療費控除の対象となる場合があります。

Q6: 何回くらい続ける必要がありますか?

A: 効果の持続期間は3〜4ヶ月程度のため、効果を維持したい場合は定期的な施術が必要です。矯正治療期間中は、3〜4ヶ月ごとの施術をお勧めしています。ただし、継続することで咬筋が徐々に小さくなり、施術の間隔が延びることもあります。矯正治療が終了した後も、歯軋りの癖が続く場合は、必要に応じて継続することも可能です。

Q7: エラボトックスと矯正治療のどちらを先に始めるべきですか?

A: 理想的には矯正治療と同時に、または矯正治療開始後早い段階でエラボトックス治療を始めることをお勧めします。矯正治療による不快感から歯軋りが悪化する前に対処することで、より効果的です。ただし、すでに矯正治療を進めている方でも、いつからでも始めることができます。

まとめ:矯正治療の質を高めるエラボトックスという選択肢

矯正治療中の歯軋りや食いしばりは、単なる不快感だけでなく、治療効果や装置の耐久性にも影響を与える重要な問題です。従来のナイトガードなどの対策では、矯正装置との併用が難しく、根本的な解決にならないケースも少なくありませんでした。

エラボトックスは、咬筋の過緊張を直接抑制することで、矯正治療中の歯軋りや食いしばりを効果的に軽減します。これにより、顎の疲労感や痛みの軽減、装置の破損リスク低減、さらには治療効果の安定化にも寄与する可能性があります。

当院では、MyOnyx(筋電計)を用いた客観的な検査に基づき、一人ひとりの症状に合わせた最適なエラボトックス治療を提供しています。安全性と効果を最大限に高めるため、施術前の詳細なカウンセリングと検査を重視しています。

矯正治療は決して短期間で終わるものではなく、1年以上の長期にわたることも珍しくありません。その治療期間をより快適に、そして効果的に過ごすための選択肢として、エラボトックス治療をぜひご検討ください。

著者情報

池田 由美子

所属学会・資格

  • 日本アンチエイジング歯科学会認定医
  • Global Academy Japan Short international cource soft and hard tissue surgeryⅡ(Faculty of Dentistry,Chulalongkorn University)修了
  • JSDA Teeth Whitening Expert取得
  • 日本顎顔面美容医療協会(Jmfas)認定医
  • 日本有床義歯学会(JPDA)所属・日本口腔インプラント学会所属
  • 日本美容歯科医療協会 口腔ヒアルロン酸・歯科ボツリヌス認定医
  • 日本抗加齢美容再建歯科協会(AesthticReconstruction)講師
  • 第一種歯科感染管理者(日本・アジア口腔保健支援機構)
  • 日本先端歯科技術研究所インプラント認証医
  • Advanced Implant Institute Japan2022年中期コース修了
  • 点滴療法研究会高濃度ビタミンC点滴認定医



池田歯科医院

Contact

伊達市にお住いの方で、
歯のことでお困りでしたら、
お気軽にご相談ください。

通院中でご予約される方は、
治療の流れで必要になる器材や要する時間、担当者が変わるため、お電話でのご予約をお願いいたします。